中小企業経営円滑化法の3つのポイント!!



中小企業経営承継円滑化法は、次の3つのポイントからなっています。


(1)遺留分に関する民法の特例


 この民法の特例については平成21年3月1日施行です。利用できるのは3年以上継続して事業を行っている中小企業で、その内容は次のとおりです。
<内容は現時点ではまだ不確定であり、税制改正により実際に決定されるものと違う場合がありますので詳しくは専門家にお聞きください>






 ●贈与株式等を遺留分算定基礎財産から除外できる制度






 先代社長の生前に、経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分の権利を持つ者全員との合意内容を家庭裁判所に許可を受けることで、先代社長から後継者へ贈与された自社株式その他一定の財産について、遺留分算定基礎財産から除外できます。
ただし、遺留分の権利を持つ者全員との合意が必要な点は、その会社運営にあたり親族すべて(特に兄弟間)の協力がないとできません。また、その際に後継者以外の推定相続人が取りうる対抗措置についてもあらかじめ取り決めをしておく必要があります。






 ●贈与株式等の評価額をあらかじめ固定できる制度






 経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分の権利を持つ者全員との合意内容を家庭裁判所に許可を受けることで、遺留分の算定に際して、贈与株式の金額をその合意時の評価額であらかじめ固定できるようになります。これにより、後継者の貢献による株式価値の上昇分は減らされないことになります。
これは、「後継者が業績を伸ばすと伸ばすほど会社の株価が高くなり、将来の相続税の金額が高くなる」という矛盾を解消するためです。


*経済産業大臣の確認申請についてはこちらをご覧ください。






(2)金融支援制度の創設


 経済産業大臣の認定を受けた中小企業者(非上場会社および個人事業主)ならびにその代表者に対して、相続が発生した時に必要となる資金調達を支援するため、次の特例が設けられました。






 ●中小企業信用保険法の特例






 会社(個人事業主を含む)の資金需要に対応。信用保険が拡大(別枠化)され、株式、事業用資産等の買取資金や一定期間の運転資金等の融資の際に保証が受けられます。






 ●日本政策金融公庫法の特例






 後継者個人の資金需要に対応。代表者個人に対する融資を行い、株式、事業用資産等の買取資金、相続税納税資金、遺留分減殺請求(遺留分を侵している他の相続人に対して遺留分の不足分を請求すること)への対応資金等の調達について支援されます。






 ただ、これらについては通常の信用保証協会の融資の拡大であり、どの程度実務的に使えるかはホームページで随時適用状況をお知らせしたいと思います。






(3)相続税の納税猶予の特例(創設予定)


 後継者が相続等によって取得した自社株式(非上場株式)等の課税価格の80%にあたる相続税の納税を猶予するという特例です。平成21年度税制改正に盛り込まれ、国会で審議され成立すれば、平成20年10月1日から遡及適用される予定です。
 ただし、新制度の適用となる株式はその会社の発行済み議決権株式の総数のすべてではなく、相続開始前からすでに保有していた議決権株式等を含めて、その会社の発行済み議決権株式の総数の3分の2に達するまでの部分です。この対象となる株式には生前贈与の株式は含まれると考えます。






1 納税を猶予される税額
(納税猶予の対象となる株式のみを相続した場合の相続税額)-(その株式の20%のみを相続した場合の相続税額)=猶予税額
 少しわかりにくいのですが、他の財産がある場合でも他の財産はすべてないと仮定して猶予税額を算出します。ですから、実際には思ったより納税猶予となる税額が少なくなることも考えられます。






2 納税猶予された税金が免除となる場合<詳細未決定>


    ① 死亡したとき
    ② 代表者の交代など次の経営者に移行を開始(生前贈与)したとき
    ③  破産したとき


 このあたりはまだ詳しく決まっておりません。ただ、ある程度農業の納税猶予の仕組みを参考に決められるのではないでしょうか。このままでは年数の縛りがない状態ですので、代表者(後継者)が後継者を決められないまま廃業する場合や病気による業績悪化などに完全に対応できるとは言えません。






3 後継者(事業継承相続人という)についての要件
この制度の適用となる後継者は誰でもいいというわけではありません。


   ① まずその会社の株式が経済産業大臣の認定を受けた一定の発行済み株式等であること
   ② 株式の過半数を同族関係者と合わせて保有していること
   ③ 筆頭株主であること
   ④ 後継者であること








4 亡くなった元経営者(非上場会社を経営していた被相続人という)についての要件


   ① その会社を経営していたこと
   ② 株式の過半数を同族関係者と合わせて保有している(いた)こと
   ③ 後継者を除いて、筆頭株主であったこと




*つまり、3と4は同族会社における親子(先代の社長と新社長)の場合にうまく承継できるように配慮されています。






5 後継者の事業継続の要件(これらが満たされないと事業の継続となりません)
就任から5年間は下記の要件を満たし続けないとといけません。


   ① 代表者であること
   ② 認定時の雇用の8割を維持すること
   ③ 相続した対象株式を継続保有すること




*このハードルについて②の雇用の問題は特にきついといえますので注意が必要です。後継者が無能であったり、経験不足である場合には業績が悪化して雇用を維持できないことが考えられます。ただでさえ先代の社長に比べ若い経営者にとってこの問題は重要です。業績悪化の際に社員を解雇したら納税猶予を取り消されたというパターンもあり得ます。具体的には次のような問題があります。
   ① 雇用を維持することになるので、なかなか後継者以外の人間の若返りや後継者の体制が作りづらい
   ② 業績悪化の際のリストラを行わざるを得ない場合はどう対応したらいいのかが不明瞭


   ③ 継者を良しとしない古い社員を解雇できない
   ④  人材派遣会社などは雇用の8割という要件をそもそも維持できない場合がある






6 万一増税猶予を取り消された場合
この場合には猶予税額の全額と利子税を全額納付することになります。
また、M&Aなどにより株式を譲渡することになった場合も猶予税額の全額と利子税を全額納付することになりますので注意が必要です。






7 この制度の適用開始時期
 本制度は平成21年3月の国会で成立する見込みですが、政局の関係等で伸びるかもしれません。そして、平成20年10月1日より遡って適用されます。従いまして、平成20年10月1日以降相続となった場合には今のうちに準備しておく必要があるでしょう。








(4)相続税制度の大幅変更について
これについては平成21年の税制改正にて先送りされました。従いまして、しばらくは当面の制度下での運用となります。